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大阪地方裁判所 昭和44年(わ)1982号 判決 1972年9月14日

一、本店の所在地

大阪府貝塚市畠中五三三番地

商号

株式会社 桑山商店

代表者

代表取締役 桑山幸十郎

二、本籍および住居

大阪府貝塚市畠中五三三番地

職業

株式会社 桑山商店代表取締役

氏名

桑山幸十郎

生年月日

大正元年九月一七日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官忠海弘一出席して審理し、次のように判決する。

主文

被告人株式会社桑山商店を罰金二、〇〇〇万円に、被告人桑山幸十郎を懲役一〇月に各処する。

被告人桑山幸十郎に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社桑山商店は貝塚市畠中五三三番地に本店を置き水産練製品(蒲鉾)の製造販売業を営むもの、被告人桑山幸十郎は被告人株式会社桑山商店の代表取締役としてその営業経理一切の業務を総括掌理しているものであるが、被告人桑山幸十郎は被告人株式会社桑山商店の業務に関し法人税を免れようと企て、被告人株式会社桑山商店の経理担当使用人鶴原千恵子等と共謀の上、

第一、被告人株式会社桑山商店の昭和四〇年五月一日から昭和四一年四月三〇日までの事業年度における所得金額が七六、一八八、五〇二円これに対する法人税額が二七、九六六、八〇〇円であるのに、公表経理上売上収入金の一部を除外し且つ架空仕入を計上する等の不正行為により右所得金額の全額を秘匿した上、昭和四一年六月二九日岸和田市岸和田税務署において、同税務署長に対し右事業年度分の所得金額が欠損一二四、〇一三円で納付すべき法人税額は無い旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税二七、九六六、八〇〇円を免れた。

第二、被告人株式会社桑山商店の昭和四一年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの事業年度における所得金額が九三、五九三、五二一円これに対する法人税額が三二、三六八、三〇〇円であるのに、前同様の不正行為により右所得金額中九三、四九一、〇〇三円を秘匿した上、昭和四二年六月三〇日前記岸和田税務署において、同税務署長に対し右事業年度分の所得金額が一〇二、五一八円これに対する法人税額は既納付所得税額からの控除によつて無い旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税三二、三六八、三〇〇円を免れた。

第三、被告人株式会社桑山商店の昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度における所得金額が一二九、一六九、〇四九円、これに対する法人税額が四四、八八六、三〇〇円であるのに、前同様の不正行為により右所得金額中一二八、五三四、三四七円を秘匿した上、昭和四三年六月二八日前記岸和田税務署において、同税務署長に対し右事業年度分の所得金額が六三四、七〇二円これに対する法人税額が六四、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、よつて同年度分の法人税四四、八二一、六〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一、第八回ないし第一〇回公判調書中の証人坂本八郎の各供述部分。

一、第五回および第六回公判調書中の証人桑山泰子の各供述部分。

一、岸和田税務署長作成の証明書三通

一、登記官作成の商業登記簿

一、株式会社桑山商店の定款

一、住友銀行貝塚支店長作成の確認書。

一、鶴原千恵子作成の昭和四四年四月三〇日付確認書。

一、住友銀行貝塚支店長、大和銀行貝塚支店長、三井銀行難派支店長、東京銀行心斉橋支店長、泉州銀行貝塚支店長、大和銀行堂島支店長、阪南信用金庫作成の回答書計七通

一、収税官吏坂本八郎作成の銀行関係調査書類二通、別口金銭出納帳元帳および総勘定元帳。

一、桑山清子、尾道薫、桑山幸助、鶴原千恵子(一二通)、桑山泰子(三通)の検察官に対する各供述調書。

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書一一通および検察官に対する供述調書一七通。

一、押収してある雪本アワジヤ請求ノート一冊および別口金銭出納帳一綴(昭和四五年押第四五五号の一二と一六)、「納品書及び附属書類」一綴(同押号の三二)。

判示第一の事実について

一、株式会社高島屋作成の回答書。

一、山崎道則の収税官吏に対する質問てん末書。

一、押収してある仕入帳五綴(昭和四五年押第四五五号の三)、諸口領収書請求書綴二綴(同押号の四)、振替伝票六綴(同押号の一三)、魚台帳一綴(同押号の一四)、小切手控二四綴(同押号の一九)、普通預金元帳五枚(同押号の二〇ないし二四)。

判示第二、第三の各事実について

一、桑山吉之助、松本弘子(二通)、森下朝子の検察官に対する各供述調書。

一、押収してある中井アラ売掛帳三冊(昭和四五年押第四五五号の五)、大学ノート六冊(同押号の六、九)、加賀関係請求台帳三冊(同押号の七)、裏川請求台帳一冊(同押号の八)、銀行入金控帳一綴(同押号の一五)

判示第二の事実について

一、山崎道則の収税官吏に対する質問てん末書。

一、押収してある仕入帳一綴(昭和四五年押第四五五号の一)、普通預金元帳一一枚(同押号の二四ないし二七)

判示第三の事実について、

一、三和銀行鴻池新田支店長、枚岡信用金庫大東支店長、京都銀行寝屋川支店長代理、三和銀行守口支店係員、三井銀行堺支店次長作成の確認書計五通。

一、鶴原千恵子作成の昭和四四年四月二五日付確認書。

一、三和銀行鴻池新田支店長、泉州銀行難波支店長作成の回答書計二通。

一、押収してある仕入帳一綴(昭和四五年押第四五五号の二)、請求台帳一冊(同押号の一〇)、納品書控三冊(同押号の一一)、別口給与関係書類一綴(同押号の一七)、別口売上納品書二冊(同押号の一八)を総合してみとめる。

なお、弁護人は、本件犯則事業年度全部にわたり検察官主張の(一)現金売上除外額、(二)預金利息額、および(三)経費認定額を争い、特に(三)については桑山泰子作成の昭和四六年三月三一日付「上申書」記載の金額を追加経費として認めるべきことを主張しているが、(一)、(二)については前各証拠により検察官の主張(冒頭陳述書記載)のとおり認めるのを相当としまた(三)については、前記桑山泰子作成の上申書記載中別表記載の中元、歳暮用贈物費支出金および脇坂地代(別表番号四〇番)については同人の証言等に照らし会社の営業上必要な所謂経費に当たるものと認められるので、これらは経費として損益計算上考慮すべきであるが、その余の右上申書記載分については全証拠を総合してもいまだその使途明確とはいえず、殊に会社の営業上必要なものと認めがたいので、これらを経費とは認めなかつた。そこで、右に経費と認めた金額(判示第一については六七、八六〇円、同第二については五〇、五〇〇円、同第三については三九、〇九〇円)を検察官主張の所得金額から除し、これに対応するそれぞれの法人税額、逋脱税額を減額のうえ判示のとおり認定した。

(法令の適用)

被告人両名の判示所為は、いずれも法人税法一五九条一項七四条一項二号(法人の処罰につきなお一六四条一項)に該当するので、被告人株式会社桑山商店について、情状により右各罪につき同法一五九条二項を適用することとし、以上の罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告人株式会社桑山商店を罰金二、〇〇〇万円に処し、また被告人桑山幸十郎につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の罪は刑法四五条前段の併含罪なので同法四七条、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において被告人桑山幸十郎を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予し、なお刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して訴訟費用は全部被告人両名に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、「被告会社の受取利息に対する所得税の源泉分離課税分について、その課税の一部を法人税の確定申告書に記載しなかつたため法人税計算上右不登載の課税分につき税額控除をしない取扱いとなつているが、それでは同一受取利息に対し所得税と法人税を重複して課税することとなり、行政上の処罰としての重加算税を課される被告会社としてはこの重加算税のほか右重複課税という税法上二重の行政的処罰(不利益処分)を受ける結果になり、明らかに国民の財産権を浸害するものであるから、本件法人税の計算に際しては右所得税の税額控除を認められるべきである」と主張する。

法人税法六八条一項にいう「利子及び配当等」に対し源泉徴収された所得税は、それが法人の所得に対する課税に関するかぎり実質的には法人税の一部先払と目されるから、法人税額の算定に当つては当該法人の決算上における処理内容の如何に拘らず当然考慮さるべく、同条項はこの趣旨を宣明しているものであるが、一方、これら源泉徴収所得税についてはその原因たる「利子及び配当等」の所得が通常法人の営業上の主要収入に位置するものでないので、法人所得としての客観性明確性に欠け金額の確定にも困難があり、金高も所得全体からすれば比較的少額であるなどの観点から、その処理については納税者たる法人の的確な申告を期待しかつこれを全面的に推進するという行政的配慮から、当該法人が確定申告書に掲記して法人所得であることを明確したものにかぎり税務調整を行なうという所謂申告額調整主義を採用し、もつて円滑かつ信義則に従つた税務処理を期する趣旨の下に同法六八条三項、四項が設けられたものと解するのが相当である。従つて、かような比較的少額かつ附随的な収入たる前記「利子及び配当等」について確定申告をするか否かは専ら当該法人の選択に委ねられている反面、その申告がないときは民法その他の法令或は信義則などに照らし「止むをえない事情」が存しないかぎりこれを考慮する必要はないというべきである。

すると、被告会社が本件犯則事業年度における法人税の確定申告書に右利子所得を掲記せず、かつ不申告につき信義則等に照らして止むえないとされる事情も見当らない本件においては、被告会社の法人税算定上これら所得税の税額控除を考慮しないのは当然である(条理上考慮すべきところはなく、また考慮することは国民感情に反するであろう)。そして所謂重加算税徴収の問題と右の所得税額不控除の問題とは制度の趣旨を異にするものであつて、後者は秩序罰的性格を含むものでなく、かつ前段所述のとおり所得税額控除の本旨が納税者の適確な申告を期し、専ら当該法人の意思決定を重視した信義則および行政的配慮に基づく制度の確立にあるところからすれば、所得税額を不控除のうえ重加算税をも課されたとしても、国民の財産権を不当に侵害したものとはいいがたいところである。

したがつて、本件においては右の税額控除は行わず、弁護人の右主張は採用しない。

よつて、主文のように判決する。

(裁判官 砂山一郎)

別表

(判示第一の経費関係)

<省略>

(判示第二の経費関係)

<省略>

※ 番号36については、送料一九〇円を含む。

以上

(参考)

株式会社桑山商店

40.5.1.~41.4.30.

<省略>

41.5.1~42.4.30

<省略>

42,5.1.~43.4.30

<省略>

法人税額の計算

40.5.1.~41.4.30.

<省略>

法人税額 28,009,560 円

控除所得税額 42,748 円

――――――――――

差引法人税額 27,966,800 円

41.5.1.~42.4 30.

<省略>

法人税額 32,547,550 円

控除所得税額 179,212 円

――――――――――

差引法人税額 32,368,300 円

42.5.1.~43.4.30.

<省略>

法人税額 44,999,150 円

控除所得税額 112,760 円

――――――――――

差引法人税額 44,886,300. 円

修正損益計算書

40.5.1.~41.4.30.

<省略>

41.5.1.~42.4 30.

<省略>

42.5.1.~43.4.30.

<省略>

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